漫画 東独にいた の魅力とネタバレ

漫画

漫画「東独にいた」は1980年代の東ドイツの雰囲気を感じさせる。社会主義の大義がかすかに残る中で惹かれ合う男女。そして国家対反体制派の熾烈な戦いとその犠牲者たち。バトルものでもありつつ、ヒューマンドラマのように人間の内面の悲しさも表現していて共感が持てる。

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漫画「東独にいた」のあらすじ(ネタバレあり)

第一話

1985年、東ドイツのとある街角。
街頭のショーウインドーを鏡代わりにして髪をチェックする女性。

その後、扉を開けてある店に入ってゆく。
立ち並ぶ本棚の列。
若い店主が声をかける。

女性はこの本屋の常連客のようだった。
二言三言言葉を交わしてから、女性は意を決したように店主を映画に誘った。
店主は誘いを快諾する。
女性はほんのり頬を染め笑顔で帰路につく。

店主の名は「ユキロウ」、日系人だ。
女性は「アナベル」東ドイツの軍人である。
アナベルは制服に着替えて、歩いて仕事に向かう。

途中で秘密警察シュタージとおぼしき2人組と目が合う。
当時の東ドイツの監視社会を象徴する組織だ。
社会主義に基づく監視と統制によって国家は維持されていた。

今日から新しい任務につく。
党幹部「コンラート議員」の身辺警護だ。
反政府組織が活発化して、もはや警察の手には負えない。

議員に対するテロを未然に防ぐため軍が警護する必要があるのだが、
軍人嫌いのコンラート議員からは警護を断られる。

さらに反政府組織のリーダー「フレンダー」の首を穫てくるように要求される。
「ユキロウ」の店で何気ない会話を楽しむ「アナベル」だが、ふと彼の口から『軍人は嫌いだ』と告げられて息を呑む。
そう彼女は軍人であることを「ユキロウ」には隠していたのだった。

第二話

説教台から社会主義の理想を説く男。
説教が終わり通路を歩いていると、一人の少年に出会う。
少年の顔は傷だらけだ。

そしてつぶやく、「この国は間違っている」
男は優しく少年に触れて答える、「私もそう思う」と。

待ち合わせの場所にはもうユキロウは来ていた。
嬉しそうなアナベル。
今日は約束していた映画の日なのだ。

一緒に映画を見ながらユキロウは考える。
彼がアナベルに近づいた目的。
特殊部隊に属する彼女を反体制派に取り込むことなのだ。
どのような手段を用いるべきか。

イデオロギーや金銭では動かないことは、感触として理解できた。
ただ、以外にも彼女は自分に好意を持っているようだ。
得意ではないが、ハニートラップが有効なのかもしれない。

映画の後レストランで食事をする。
そこのテレビからニュース番組が流れてくる。
ソヴィエト連邦ではゴルバチョフ氏が書記長に就任したと。

少しの間、テレビに目を向けたユキロウだが、料理が運ばれてきて再びアナベルとの会話に戻る。
この後実家の誕生会に誘われるユキロウ。
実家と聞き一瞬考えるが、彼女のちょっと緊張した表情を見て快諾する。

同じ頃、アナベルの両親は勤務先である基地にいた。
だが、そこはユキロウ率いる反体制派組織のテロの目標だった。
同じ職場で働く両親は仕事の合間に雑談をしている。

この後の誕生会で娘が紹介する人物について気が気ではない父親と、
娘の選んだ男性なら間違いはないと言う母親。
次の瞬間、基地は炎に包まれる。

漫画「東独にいた」の魅力

社会主義に夢をみた時代

1980年代東側諸国は経済的には不利な状況にありつつもいまだ健在だった。
世界が西と東に別れ、覇権を争っていた。
数年後にベルリンの壁が崩壊し、そのしばらく後にソ連邦が解体されるなど夢にも思っていなかった。

そんな時代、東側の優等生国家である東ドイツに生きて、それぞれの国家を追い求めた人々の物語。
国家の矛盾と自分の生活への違和感。

そんなものを飲み込みつつ、日常の中に感じる喜びもある。
日常と革命と体制維持、そして手段としての戦闘。

展開の妙

物語は静かに始まる。
本好きの少女と、彼女が好意を寄せる本屋の青年店主。
舞台は1980年代の東ドイツ。

その後の歴史を知っている我々としては、それだけで哀愁が漂ってくる。
あの時代のあの場所に生きた普通の人間のドラマだと思ってしまう。
しかし、その予想は裏切られる。

アナベルは超人的な身体能力を誇る東ドイツ軍の秘密部隊MSGのメンバーだった。
そして、ユキロウはそれを知り彼女に近づく反体制派のリーダーだ。

ヒューマンドラマのような始まりからの戦闘漫画への転換。
しかし、戦う者同士の信念や葛藤も描かれている。

国家と人間

国家の構成員である国民には当然様々な人がいて、様々な考え方がある。
自分の属する国家の体制を支持している者もいれば、反対している者もいる。
支持している者の中には盲従に近い者もいるし、仕方なく支持している者もいる。

個々人同士では惹かれ合っていても国家観が正反対の二人。
いや、国家観も実はそれほど違っていない。
ただ、違う組織に属しているだけなのかもしれない。

そして、その組織が目的達成のための手段として戦闘を選んだのだ。
惹かれ合った二人は戦闘の中で何を思ったのだろうか。

感想

失われた国や体制というのは哀愁を誘う。
日本でも、邪馬台国や蝦夷とよばれたアテルイたちの一族、幕藩体制など。

時代とともに失われた体制、統治、習慣そして人々の生活様式。
東ドイツという国は1990年までは存在し、その体制下で生活する人がいた。
漫画なので誇張やフィクションは山盛りだが、失われた体制の匂いを感じることができる作品だ。

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