ヴィンランド・サガは本格的な歴史ものの漫画です。舞台は11世紀のヨーロッパ。デンマーク王国が伸長し、イングランドもその手に収めつつある。デンマークとイングランドの凄惨な闘い。そこに参加し分け前を狙うヴァイキングたち。痛快で迫力ある戦闘シーンが満載だ。その反面、敗れて傷つくものや死にゆくもの、その家族達の哀切。そんな中、理想の地ヴィンランドに平和な国を築こうとする物語だ。
あらすじ
11世紀のヨーロッパではヴァイキングが各地を荒らし回っていた。
アシェラッドが率いる集団もそんなヴァイキングの一派だ。
その中に10代の少年がいる。
首領からは「使い捨て」要員とみなされて、危険な任務を任されている。
今回も傭兵契約の交渉をやらされ、共闘した軍からは人質のように扱われている。
そして戦が始まれば進んで敵陣に切り込み、驚異的な戦闘能力を発揮する。
少年はトルフィンという。
トルフィンが危険な任務を引き受けるのは報酬のためだった。
報酬と言っても金銭ではなく、首領アシェラッドと決闘する権利なのだ。
正々堂々とした決闘でアシェラッドを殺すことがトルフィンの唯一の願望である。
二人の間に何があったのか。
話は10年前に遡る。
幼いトルフィンはアイスランドの小さな村で家族と幸せに暮らしていた。
そこへヨーム戦士団が突然現れる。
彼らの目的は父トールズを再び戦士として迎え入れることだった。
村の安全と引き換えにトールズは戦士として戦争に出るとこを決意する。
ところが戦争に向かう途中で罠にはまり、アシェラッドに殺されてしまう。
父の敵を討つために、トルフィンはアシェラッドの一派と行動を共にする。
しかし記憶の中の父はトルフィンに復讐などは望んでいない。
ヴィンランド・サガの見どころ
とにかく強いトルフィンとヴァイキング
序盤はトルフィンとヴァイキングの軍団の圧倒的な強さが強調されている。
他国の戦に報酬目当てで参加して、相手をほぼ殲滅してしまう。
そして味方に先駆けて、戦利品を独り占めして去ってゆく。
当時のヴァイキングのあり様を詳しく描いている。
作画も丁寧なので映画のような臨場感が味わえるのも魅力。
素早さを武器に敵兵の懐に入り、ナイフで倒してゆくトルフィン。
この頃は強者が弱者を支配するのは当然と考えていた。
11世紀のヨーロッパが面白い
舞台は主にアイスランド、デンマーク、イングランドで11世紀の初頭。
デンマーク王国がイングランドに侵攻し、ヴァイキングも参加している。
面白いのは、デンマーク王室とイングランド人はキリスト教を信仰し、ヴァイキングたちは北欧の神々を信仰していることだ。
つまりデンマーク王室は異教徒と手を組み、同じキリスト教徒を虐殺している。
ただ、デンマーク王室とヴァイキングは同じデーン人だが、イングランドはアングロ・サクソン人なので、宗教より民族も絆のほうが強かったとも言える。
戦争、貧困、奴隷の歴史
トルフィンが生まれ育ったアイスランドの村は、戦争や圧政から逃れてきた人々が多い。
ただ極寒の地なので、貧しい生活を余儀なくされている。
毎年無事に冬が越せるとは限らないのだ。
また、アイスランドに限らず労働力として奴隷が存在していた。
奴隷の多くは戦争に負けた側の人々で、故郷から離れた地で暮らしていた。
このような人間社会の負の部分にも焦点が当てられている。
感想
タイトルの「ヴィンランド・サガ」とはヴィンランドが草原の地を意味し、サガは物語という意味。
作中でもヴィンランドという豊かな土地が出てくる。
船乗りの「レイフ・エリクソン」が偶然発見した大陸で、トルフィンはここに理想の国を作ろうとする。
諸々の描写からアメリカ大陸のことだと推測される。
ヴァイキングとして多くの人の命を奪ってきたトルフィンが奴隷の身に落され、これまでの行いを後悔する。
そして、戦争や奴隷のない豊かな国を作ろうとする物語。
ただし、序盤はその背景となる11世紀ヨーロッパの戦乱でのトルフィン達の活躍と謀略が中心になっている。
また、トルフィンの心の変化とその成長も丁寧に描いている。